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2022

光を聞く

光の音がする

 

ささやくような

小さな鈴の鳴るような

 

透き通る旋律の

五線譜を歩く

 駅を出ると公園の木の下に色とりどりの水筒がならんでいた。保育園の子どもたちが走り回っている。

一人が泣き出して、のぞきこむ先生になにか訴えているみたい。何人か走り寄って声をかける。泣き声が小さくなった。

 久しぶりの晴れ。「おてんき」という言葉がぴったりの空だ。赤い落ち葉も、すすきの穂も光りながら揺れる。

 道端に居留地界の石標があった。何度も歩いているはずの道なのに、初めて気がついた。

 横浜が開港したのは安政のころだ。外国人居留地とされた横浜山手には、古い洋館が並ぶ。当時の外国人邸宅や、移築された館もあるという。鎖国をといた日本のその後は、歴史の中に書くとあまりに長い。この町にも、悲しみや怒り、欲望、諦めが埋められている。

 そうしたことを知ってはいるけれど、やわらかな陽を追いかけるうちに、忘れている。そして、昨夜まで心を重くしていたものも、今日はどこかに置いてきた気分。

 幼いわたしがこの光を見たら。小さく声をあげたり、指さして駆け出したりするだろうか。ころばないように気をつけて。こんどは何をみつけたの。

 歩くうち、灯のともる時刻になった。

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