

2026
ここにいたひと
旅先の ふるい屋敷に
ここにいた ひとを思う
家族、縁者や働く人が
安心して眠れるように
ただ今日を豊かにと 建てた家
百年後の感嘆は想像もせず
いま ここに立つわたし
光さす 風わたりくる
かすかな音 話し声
夕餉の団欒 衣ずれと足音
この屋敷に 包まれている
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旅は家に帰るまでが旅、というけれど、家についてもなお、旅はつづくように思う。
荷をほどき、居間にくつろいでも、わたしのどこかがまだ旅をしている。
余韻というよりもっと確かに、旅先の景色が見えている。
静かな邸宅街に、明治のころ建てられた屋敷がいくつも残されていた。かつて、日本の近代産業を担った事業家たちが出会い、暮らしていた町だという。「東京で成功するには人の縁が、大阪で成功するには交渉力が必要だが、ここでは地道な努力こそが成功の鍵だ」と、起業家をはじめさまざまな人が交流していた、と案内にあった。
訪ねたうちの一邸は大正時代、事業家が暮らすために建てられた洋館だ。のち、家族縁者と暮らすため、広い日本家屋を2年かけて建て増ししたものの、完成間近に関東大震災がおこる。その報を目にして耐震工事からやり直し、さらに2年を要して竣工したということだ。一般公開に先立つ近年の調査でも、現代の基準を超える耐震強度があったと聞く。
先の大戦で市内は度々空襲にあいながら、この町は奇跡的に被害を免れたそうだ。
散歩の気分で訪れた旅先の町であったが、わたしの中に深く入りくるものがあった。匂いや温度や手触りものこっている。深呼吸をしても胸の奥に、あの町の空気がまだあるようだ。
撮影地
名古屋市主悦町 文化のみち 橦木館 (旧井元為三郎邸)
旧豊田佐助邸
文化のみち 二葉館 (旧川上定奴邸)
令和7年9月