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2023

そこには、いない

遠く 高層ビルや高速道路が細かい雨に煙る

豪華客船の泊まる港からしばらく行くと

水の静かな運河に 古びた舟がひしめいていた

 

一人になりたいと思ったのだ

黒く濡れた川沿いを歩く

こんな雨の日に

わたしに投げられた言葉 あのときの そしてあのときの

投げたひとはもう わたしのことを忘れている

言葉ばかりが黒い影になって ささり まとわりつく

振りほどいて ここに来たのだ

 

雨粒が水面にとけて 沈んでいく

錆びた船縁は 海を覚えているかしら

言い返せなかった言葉 あのときも いまもきっと

悪意のないはずの言葉たち

黒い影はどんなかたち どこ どこ どこ

いつの間にか探している 

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